大阪から世界を見渡す(辰野勇 モンベル会長) – 読売新聞



 モンベルは創業40年を超え、今では全国121か所で直営店を展開している。会社の規模は大きくなったが、本社は創業の地である大阪のままだ。本社を東京に移そうと考えたことは一度もない。

 大阪にあって東京にないものは何か。この質問を受けた時、私の答えは決まっている。「東京ではない」ということだ。

 東京にいると、世の中が東京を中心に回っていると思いこんでしまう。巨大なマーケットがあり、すべてが完結してしまうからだ。中華思想(自分たちが世界の中心という考え方)のように、日本=東京という誤解が生じてしまう。

 大阪にいると、日本全体を客観的に見ることができる。地方の隅々まで、人間が生活していることを、実感として捉えることができる。この東京以外からの視点を大事にしたいと常々、考えている。

 例えば、当社が2008年に中国地方の1号店として出店したのは、中国地方で人口が最も多い広島市でも、2番目の岡山市でもなく、鳥取県大山だいせん町だ。東京の発想なら、あり得ない選択だと思う。

 中国地方の最高峰である大山の登山口に立地し、過疎化が進んでいたが地元自治体の熱心な誘致もあり、決断した。最初は商売が成り立つのかと疑心暗鬼だったが、地元の人たちや登山者らでにぎわい、成功している。

 登山などのアウトドア体験を楽しめる場所の近くにある地方の店舗を「フィールド店」と名付けており、現在は全国5か所になった。人口約5000人の北海道小清水町にある店舗は、一部の大阪の店よりも売上高が大きいほどだ。

 フィールド店の周辺は、農業や林業など1次産業が盛んな地域が多い。登山の時に使う製品だけではなく、地元の人たちのニーズをくみ取り、屋外での農業や林業の作業時に使える商品の開発も進められる。地元の特産品を、モンベルの顧客であるアウトドア愛好家らにも紹介し、地域の活性化にもつながった。

 近年は、地方自治体と協定を結び、アウトドアを生かした観光誘致に各地で取り組んでいる。

 トレッキングやカヌー、自転車といった人力による移動手段で日本の豊かな自然を体感する旅のスタイルを世界に発信する「ジャパンエコトラック」という取り組みで、15年にスタートした。

 モンベルが事務局となり、自治体や企業などと連携して登山道や自転車道を整備し、ガイドマップを作ったり、旅行商品として売り出したりしている。訪日外国人の旅行はいまや「観光地巡り」や「爆買い」ではなく、「日本の自然を体験したい」「文化や生活に触れたい」といった体験型の旅行に変わりつつある。そこで、海外にもPRし、日本の豊かな自然を体感できる旅のスタイルを発信している。

 第1号となった鳥取県では、境港市や米子市をスタート地点とし、大山周辺をカヌーや自転車で結ぶルートを整備した。滋賀県の琵琶湖北部、高知県の吉野川源流エリアなど、全国14か所に増えた。これからもっと増やしていきたい。

 モンベルが手がけるアウトドア用品は本来、自然豊かな地方で使ってもらう製品だ。地方が元気になれば、我々も元気になれる。モンベルの強みがあってこその取り組みだと自負している。

 自分たちの個性・強みを見据え、人まねをせずに、次のビジネス展開を考えていく。これが、進取の精神というものだと思う。その精神は商人の街と呼ばれた大阪にあると言われてきた。

 しかし今は、そうした気概が失われつつあるのではないか。大阪で生まれた大企業は数多いが、代替わりとともに守りに入ってしまい、世の流行には敏感だが、新たなものを生み出していくという発想が少なくなってはいないだろうか。起業して成功したら東京に移るという流れが強まったこともあるかもしれない。

 大阪の経営者はもっと、大阪を本拠にしてグローバルな展開を見据えていけばいい。東京のまねをすることはない。大阪独自のビジネスのありようがあるはずだ。まねをしない企業が多く集まってこそ、多様性が育まれ、新しいビジネスが生まれていく。 

 

◇たつの・いさむ 堺市出身。1969年にスイスの名峰・アイガー北壁を、当時の最年少記録となる21歳で登はんした。商社勤務などを経て75年、28歳でアウトドア用品大手モンベルを創業した。71歳。





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